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「じゃあ、どうやればいいの?」を超えるためのスキル設計― 行動変革が止まる“第二の関所”をどう越えるか ―

「納得」したのに、なぜ行動が止まってしまうのか

前回のコラムでは、変革疲れの現場を動かす鍵として「納得感」を取り上げました。

「変わらないといけない理由が腹落ちした」
「なぜ今それが必要なのかが分かった」

ここまで来ると、変革は一歩前進したように見えます。
しかし、多くの現場で次に必ず出てくる声があります。

「で、じゃあ具体的に、どうやればいいんですか?」

この問いが宙に浮いた瞬間、行動は止まります。
これは意欲の問題ではありません。

ジェックの「行動理論改革メソッド」で言えば、ここがまさに“納得”の次に越えるべき関所です。

「スキル」の関所で、なぜ多くの変革が失速するのか

納得したはずなのに、動けない。
このとき、組織では次のようなことが起きがちです。

  • 研修や説明会で「やり方」は伝えた

  • マニュアルや資料も用意した

  • それでも現場の行動は変わらない

ここで見落とされやすいのが、スキルを“知識”として扱ってしまっている点です。

行動変革におけるスキルとは、「知っていること」ではなく、現場で“やってみるための具体的な型”です。

さらに、スキルが機能しない背景には、次のような構造があります。

  • どの場面で使うのかが曖昧

  • 失敗していいのか分からない

  • どこまでできれば十分なのか基準がない

この状態では、「やれ」と言われても人は動けません。
スキルの関所で止まるのは、本人の能力不足ではなく、スキルの設計不足なのです。

行動変革における「スキル」とは何か

ここで、あらためて問い直したいのは、「スキルとは何か」という点です。

行動変革の文脈で言うスキルとは、高度な専門技術やテクニックのことではありません。
それは、納得したことを、現場で一度やってみるための“行動の型”です。

▶スキルがある状態とは、
・まず何から手をつければいいかが分かる
・不安があっても、一歩踏み出せる
・やってみた結果を振り返れる

▶逆にスキルがない状態とは、
・頭では分かっている
・でも、最初の一歩が出ない
・結果として「やらないまま」になる

この差が、変革を前に進めるか、止めてしまうかを分けます。

納得感からスキルへつなぐ、3つの設計ポイント

では、納得感を行動につなげるために、スキルはどのように設計すればよいのでしょうか。

① 変えることを「行動単位」まで落とす

「対話を増やす」「主体性を高める」といった表現は、方向性としては正しくても、行動にはなりません。
重要なのは、誰が・どんな場面で・何をするのかまで落とすことです。
例えば、
×「部下との対話を増やす」
○「週1回の1on1で、最初の5分は部下の困りごとを聴く」

このレベルまで具体化されて初めて、人は「できるかもしれない」と感じます。

② スキルは“完成形”ではなく“試作版”で渡す

多くの組織は、最初から完成度の高いやり方を求めがちです。しかし、それが行動のハードルを上げてしまいます。
最初に必要なのは、「まずはここまでできればOK」という試作版のスキルです。
・完璧を求めない。
・試して、修正する前提で渡す。

これが、「やってみる」を引き出します。

③ 納得(WHY)とスキル(HOW)を切り離さない

スキルは、単体で渡すとすぐに形骸化します。
「なぜこのスキルなのか」
「この行動が、どんな納得とつながっているのか」

この言葉の橋渡しを、繰り返し行うことが重要です。納得とスキルが結びついている限り、行動は意味を失いません。

経営層・マネジメント層が特に留意すべきこと

スキルの関所を越えるかどうかは、経営層・マネジメント層の関わり方に大きく左右されます。

① スキル習得を「現場任せ」にしない

「やり方は教えた。あとは現場で」
この瞬間に、多くの取り組みは止まります。

マネジャー自身が、
・使ってみる
・うまくいかなかった話をする
・試行錯誤のプロセスを見せる

この姿勢が、現場に「やっていい」というメッセージを伝えます。

② 成果や評価と直結させすぎない

スキル習得の初期段階で結果を求めすぎると、人は失敗を避けるようになります。
この段階で見るべきなのは成果ではなく、「試したか」「振り返ったか」という行動そのものです。

③ スキルを“一度きり”にしない

1回の研修、1回の説明で身につくスキルはありません。
次の「やってみる」「振り返る」へ進む前提で、スキルを使い続ける場を設計することが欠かせません。

やりっぱなしにしない鍵は「行動を見える形にする」こと

納得 → スキル → 実践、この流れを回し続けるために重要なのが、行動の可視化です。

  • 実際に試した回数

  • どんな工夫をしたか

  • 振り返りで出てきた気づき

こうした行動が見えると、「少しずつ進んでいる」という実感が生まれます。
これは管理のためではありません。納得感を支え続けるための材料です。

まとめ:納得は、スキルによって初めて行動になる

納得は、組織変革の第一の関所です。しかし、納得だけでは人は動けません。

「じゃあ、どうやればいいの?」
この問いに答えるスキルがあって初めて、人は一歩を踏み出し、試行錯誤を始めます。

組織変革とは、人が関所を一つずつ越えていくプロセスを、丁寧に、意図的に設計していくことです。

納得を、行動につなげる。その要となるのが、スキルの関所なのです。

※シリーズコラム

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