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AIと働く時代に「自分の仕事」をどう創るか —ジョブ・クラフティングの実践

「言われたことだけやる」毎日に、疲れていませんか? 「毎日同じルーチンワークの繰り返しで、成長を感じられない」、 「AIに任せられる業務が増えてきたが、自分ならではの価値をどう出せばいいか悩んでいる」

変化の激しい現代、多くのビジネスパーソンがこうした漠然とした停滞感を抱えています。 会社から与えられた役割をこなすだけでは、モチベーションも成果も頭打ちになってしまいます。そんな壁を感じている方にこそ知っていただきたいのが、「ジョブ・クラフティング(Job Crafting)」という考え方です。

学術的定義:3つの「境界」を書き換える

ジョブ・クラフティングとは、2001年に経営学者のWrzesniewskiDuttonによって提唱された概念で、「従業員が自らの仕事の境界(Boundaries)を主体的に変更すること」と定義されています (Wrzesniewski & Dutton, 2001)。 具体的には、以下の3つの境界を、自分の強みや価値観に合わせてカスタマイズするプロセスを指します。

1. タスクの境界(Task Boundaries): 仕事の範囲や手順を変えること。

2. 関係性の境界(Relational Boundaries): 仕事で関わる人や関わり方を変えること。

3. 認知の境界(Cognitive Boundaries): 仕事の目的や意味の捉え方を変えること。

いわば、会社から支給された既製服(職務記述書)を、「自分仕様」に仕立て直す(クラフトする)ことで、やらされ仕事を「意味のある仕事」へと昇華させる技術なのです。

2025年の進化形:Job Crafting 2.0へ

この基本概念に加え、テクノロジーが浸透した2025年の現在では、新たな実践形態が求められています。ここでは、最新の学術研究や実務トレンドをベースに、現代のビジネスパーソンに向けた3つのアプローチをご提案します。

1. AI協働型タスク・クラフティング (AI-Augmented Task Crafting)

近年、AIの普及に伴い、自らの仕事をAI活用前提で再設計するプロセスに注目が集まっています。こうした中、Li et al. (2024) は、AIとの協働に適応するために従業員が自発的に仕事を再定義する行動を「AIクラフティング(AI Crafting)」という新たな概念として提唱しました。これを実務的に応用し、「AIに任せる領域」と「人間が深める領域」を意図的に仕分ける動きが重要視されています。 例えば、定型的なデータ処理は生成AIに任せ、空いたリソースを「創造的な思考」や「対人コミュニケーション」といった人間ならではの活動に再配分します。これは、AIによる能力拡張(Augmentation)を前提とした、新しいタスク調整の形と言えるでしょう (McKinsey & Company, 2024)

2. コラボレーティブ・クラフティング (Collaborative Crafting)

ハイブリッドワークが定着した今、一人だけで仕事を抱え込むのは危険です。「私の得意なAは私がやるので、苦手なBはあなたにお願いしたい」。このように、チームメンバー同士でお互いのタスクを交換・調整し合うアプローチは、学術的にも「コラボレーティブ・ジョブ・クラフティング(協働的JC)」として確立されており、その有効性が実証されています (Leana et al., 2009)。 特にリモート環境下においては、孤立を防ぎ、エンゲージメントを高めるために不可欠な手法です (Goel et al., 2023)

3. ウェルビーイング・クラフティング (Well-being Crafting)

生産性向上だけが目的ではありません。学術的には「妨害的な仕事の要求を減らす(Decreasing Hindering Job Demands)」と呼ばれる調整行動ですが (Tims et al., 2012)、本コラムではこれを「ウェルビーイング・クラフティング」と呼び、現代においてはより積極的に「自分のメンタルヘルスを守るためのクラフティング」と捉え直す必要があります。 「通知をオフにする時間を設ける」、「意図的に雑談の時間を設定する」など、持続可能な働き方を維持するためのルール作りも広義のジョブ・クラフティングとして重要視されています。

「お役立ち道」への接続

AIが進化すればするほど、逆説的に「人間性」の価値が高まります。 私たちが提唱する「お役立ち道」の視点で見れば、この新しいジョブ・クラフティングは以下のように解釈できます。

• 挑戦: AIという新たなツールを恐れず使いこなし、前例のない価値創造に挑むこと。
• 協調: 画面越しの相手とも、タスクの交換(コラボレーション)を通じて信頼関係を深めること。
• お役立ち: 機械的な効率化を超え、相手の心に響く「人間ならではの貢献」を追求すること。

明日からできる「OSアップデート」

大げさな改革は必要ありません。

作業(Doing)をAIに譲り、私たちは意味(Being)と関係性(Relating)を紡ぐ。そうやって仕事を「クラフト」し直した時、AIはあなたの可能性を拡張する最強のパートナーとなるはずです。

参考文献

Goel, R., Game, A., & Sanz Vergel, A. (2023). Attachment and work engagement in virtual teams: Promoting collaborative job crafting. Small Group Research, 54(3).

Leana, C., Appelbaum, E., & Shevchuk, I. (2009). Work process and quality of care in early childhood education: The role of job crafting. Academy of Management Journal, 52(6), 1169–1192.

Li, W., Qin, X., Yam, K. C., et al. (2024). Embracing artificial intelligence (AI) with job crafting: Exploring trickle-down effect and employees' outcomes. Tourism Management, 104, 104935.

McKinsey & Company (2024). The human side of generative AI: Creating a path to productivity.

Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of Vocational Behavior, 80(1), 173-186.

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26(2), 179-201.

株式会社ジェック 川田隆也
株式会社ジェック 川田隆也
イノベーション共創部所属。理念に基づく組織変革と人材開発の理論構築・実装を担当。持続可能な経営を支えるコンサルティング手法の開発と、その社内外への展開に注力している。複雑な時代だからこそ、人と組織の可能性を信じ、変化をともに創り出す姿勢を大切にしている。

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