
上司と部下の信頼関係づくり4段階 第5回:「共創促進」~信頼の“安心”を、創造の“刺激”へ変える段階
最高の関係が、停滞を生む
これまでの段階を踏んで、上司と部下の間に強い信頼と共感が生まれる、この状態はまさに「最高の関係性」と言えるでしょう。部下は上司の意図を理解し、上司も部下の強みを把握している。仕事もスムーズに進み、成果も安定して出せる。まさに理想的なチームの姿です。
しかし、この“安定”こそが落とし穴になることがあります。
関係性が安定すると、「自分たちは特別な関係だ」「上司の考えていることはもう分かっている」といった気の緩みや自己判断が顔を出し始めます。
知らず知らずのうちに、挑戦よりも現状維持を選ぶようになり、やりがいが薄れ、仕事がマンネリ化していく――これが「共創促進」の壁です。
現場イメージ:ベテラン社員との信頼の落とし穴
たとえば、5年目のベテラン社員Aさん。入社以来ずっと同じ上司のもとで働き、細かく言わなくても意図を汲んで動いてくれる存在です。ところが最近、「確認が雑」「新しい提案が減った」と上司は感じています。
一方Aさんは、「もう細かく言われなくても大丈夫だろう」「上司の考えは分かっている」と思っており、上司の指示も“先読み”で済ませてしまうようになり、結果として、かつてのような建設的な意見交換や試行錯誤が減り、互いの成長の機会が失われていきます。
まさに「信頼が深まったことによる油断」が共創の停滞を生むようになってしまいます。
「共創促進」とは:開放と緊張のバランスを取り戻す段階
この段階で必要なのは、関係性を再び“動かす”ことです。
信頼という安心感の中に、もう一度「心地よい緊張」を取り戻す必要があります。
上司にとってのテーマは「慢心を防ぎ、刺激をつくる」こと、部下にとっては「自分の仕事の使命やお役立ち感を再確認する」ことです。
この両者がかみ合うことで、チーム全体のエネルギーが再び高まり、「やってみよう」「新しい価値をつくろう」という創造力が発揮されるようになります。これが、共創促進の本質です。
上司の打ち手:信頼を“前進の刺激”に変える4つのアクション
共創促進の段階では、以下の4つの働きかけがポイントになります。
フィードバックは「正確かつ即時」に行う
経験豊富な部下ほど、「もう言われなくても分かる」と思いがちです。だからこそ、曖昧さを残さず、感じたことをすぐにフィードバックすることが重要です。正確で即時のフィードバックが、マンネリを防ぎ、内省と成長を促します。一人ひとりの「お役立ち意識・使命感」に働きかけ続ける
「何のためにこの仕事をしているのか」「誰に貢献しているのか」を上司が語り続けることが、部下のモチベーション維持につながります。叱咤激励も、使命感の共有という文脈で行うと、深い納得感を伴う動機付けになります。心理的葛藤を除去し、適度な緊張感を保つ
仕事がスムーズにいくほど、緊張と緩和のバランスが崩れやすくなります。部下が「もう挑戦しなくてもいい」と思い始めたら要注意です。定期的に新しい役割やテーマを与え、“次の挑戦”のきっかけをつくることが大切です。上司自身が率先して「知恵出し・情報活用」を行う
上司がまず変化や創造に挑戦する姿を見せることで、チーム全体が刺激を受けます。上司が停滞していては、共創は生まれません。部下は「この人となら、次の価値をつくっていける」と感じ、信頼が次のフェーズへと深化します。
信頼を“甘え”で終わらせず、“進化”へつなげる
共創促進の段階は、信頼関係の「完成」ではなく、「再起動」の時期です。
信頼という基盤の上に、もう一度“挑戦”と“対話”のサイクルを組み直すことで、チームはさらに高い創造力を発揮します。
そして、もし関係性に歪みが生じたときは、迷わず第1段階「関係促進」に立ち返ること。対話のパイプを再びつなぐことが、共創関係を守る第一歩です。
信頼を安心で終わらせず、刺激と成長の源泉に変えていく、それが真の「共創促進」です。






