
「行動を変えよう」と言っても、なぜ人は変わらないのか? ~戦略を現場の行動につなげる「判断」の変革~
目次[非表示]
- 1.行動は、突然生まれるものではない
- 2.「行動の断絶」とは何か?
- 3.「主体性を持つ」だけでは、行動は決まらない
- 4.行動を変えるには、「判断のクセ」に目を向ける
- 5.「これまでの正解」が、これからの正解とは限らない
- 6.「行動を変えよう」だけではなく、「判断を問い直そう」
- 7.AI時代にこそ、「人の判断」が重要になる
- 8.マネジャーの役割は、「答えを教える」から「判断を育てる」へ
- 9.「行動変革」は、行動だけを変えることではない
- 10.あなたの組織では、「行動の断絶」が起きていませんか?
- 11.戦略を「自分で判断し、動ける」組織へ
- 12.では、行動は変わった。その次に必要なことは?
- 13.戦略実装の「5つの断絶」を、自社でチェックしてみませんか?
- 14.※シリーズ
- 15.※関連情報
「もっと主体的に動いてほしい」
「指示を待つのではなく、自分で考えて行動してほしい」
「新しい戦略に合わせて、行動を変えてほしい」
マネジャーなら、一度はこうした言葉を口にしたことがあるのではないでしょうか。
研修でも、会議でも、1on1でも伝えている。
けれど、しばらくすると、
「結局、今までと同じやり方に戻ってしまう」
「言われたことはやるけれど、自分からは動かない」
「新しい行動を期待しているのに、なかなか変わらない」
ということが起こります。なぜでしょうか。
私たちは「行動を変えてほしい」と言いながら、行動そのものだけを変えようとしているのかもしれません。
行動は、突然生まれるものではない
例えば、営業担当者に、「もっとお客様の課題を深く聞いてください」と伝えたとします。
すると、担当者は「分かりました」と答える。
しかし、実際の商談になると、これまでと同じように商品説明から入ってしまう。
本人にやる気がないのでしょうか。そうとは限りません。
本人の中では、
「まず商品の特徴を説明したほうが、お客様に分かってもらいやすい」
「限られた商談時間だから、効率よく説明しなければならない」
「お客様は早く提案を聞きたいはずだ」
といった判断が働いている可能性があります。
つまり、表面に見えているのは「行動」ですが、その行動の前には、「どうするのがよいか」という判断 があります。
だからこそ、行動を変えようとするなら、そのもとにある判断にも目を向ける必要があります。
「行動の断絶」とは何か?
戦略実装の過程で起きる接続不全を「5つの断絶」として整理し第1回で紹介しています。
第2回では「意味の断絶」、第3回では「役割の断絶」を取り上げました。今回取り上げるのは、3つ目の「行動の断絶」です。
これは、戦略や役割として「何を変えるべきか」が示されていても、「具体的に、どのような行動をすればよいのか」まで落とし込めていない状態です。
例えば、
「顧客起点で考える」
「主体的に動く」
「AIを活用して生産性を高める」
「より付加価値の高い仕事をする」
こうした言葉は、方向性としては正しいでしょう。
しかし、これだけでは、現場の一人ひとりが、「では、私は明日から何を変えればいいのか?」を判断するには、少し抽象的です。
「主体性を持つ」だけでは、行動は決まらない
「主体性を持ってください」と言われたとき、10人いれば10通りの受け止め方があります。
ある人は、「自分から上司に提案すること」と考えるかもしれません。
別の人は、「与えられた仕事を最後まで責任を持ってやること」と考えるかもしれません。
また別の人は、「新しいことに挑戦すること」と考えるかもしれません。
つまり、「主体性」という言葉を共有しただけでは、実際の行動は揃いません。
必要なのは、
「この状況では、どんな判断をするのか」
「これまでならこうしていたが、これからはどうするのか」
まで具体化することです。
行動を変えるには、「判断のクセ」に目を向ける
ここが、行動変革を考えるうえで重要なポイントです。
人は、いつでも合理的に行動しているわけではありません。
過去の経験や成功体験、周囲の期待、仕事上の習慣などから、
「こうするのが普通だ」
「これが正解だ」
「こうしたほうが失敗しない」
「今までもこうしてきた」
という判断の基準を持っています。
そして、その判断が、日々の行動を生み出しています。
例えば、
「失敗しないことが大切」⇒新しい提案は控える
「上司の期待に応えることが大切」⇒指示されたことを正確にこなす
「早く処理することが仕事」⇒AIで効率化して、さらに多くの仕事をこなす
こうした判断が無意識のうちに行動を決めていることがあります。
だから、「もっと挑戦してください」「もっと主体的に動いてください」と行動だけを求めても、なかなか変わらない。
その行動を選んでいる「判断」そのものに目を向ける必要があるのです。
「これまでの正解」が、これからの正解とは限らない
特に、変化の大きい時代には、この問題が顕著になります。これまで成果を上げてきた仕事のやり方が、環境の変化によって合わなくなることがあります。
例えば、AIによって情報収集や資料作成が効率化されたとします。
これまでなら、「情報をたくさん集めることが、質の高い提案につながる」という判断が有効だったかもしれません。
しかし、AIによって大量の情報を短時間で整理できるようになれば、「どれだけ情報を集めたか」よりも、「その情報から何を問い、何を判断するか」のほうが重要になるかもしれません。
つまり、AI時代には、単に新しいスキルを身につけるだけではなく、「これまで当たり前だと思っていた判断基準を、アップデートできるか」が問われます。
「行動を変えよう」だけではなく、「判断を問い直そう」
では、どうすればよいのでしょうか。
一つの方法は、行動の結果だけを見るのではなく、「なぜ、その行動を選んだのか?」を問い直すことです。
例えば、部下が新しい提案をしなかったとします。
「どうして提案しなかったの?」と聞くだけでは、場合によっては責められているように感じるかもしれません。
そこで、
「今回、どんなことを考えて、この進め方を選んだの?」
「他にはどんな選択肢がありそうだった?」
「もし、今までとは違うやり方をするとしたら、何ができそう?」
と問いかけてみる。
すると、その人がどのような判断基準で行動していたのかが見えてきます。
そして、「これからの戦略を考えると、どちらの判断がより合っているだろう?」と一緒に考えることができます。
これは、単に「正しい行動」を教えるのとは違います。
自分の判断を振り返り、自ら判断基準をアップデートしていく。そのプロセスこそが、行動変革につながります。
AI時代にこそ、「人の判断」が重要になる
AIは、膨大な情報を整理し、選択肢を提示し、文章を作ることができます。だからこそ、これからの仕事では、「AIを使えるか」だけではなく、「AIが出した情報や選択肢を、どう判断するか」が重要になります。
AIに、「この仕事はどう進めればいい?」と聞けば、いくつもの答えを出してくれるでしょう。
しかし、
「自分たちの組織にとって、どれを選ぶべきか」
「顧客にとって、本当に価値があるのは何か」
「これからの戦略に照らして、何を優先すべきか」
を決めるのは、人です。
だからこそAI時代には、「判断できる人材」そして「自分の判断をアップデートできる人材」が、ますます重要になります。
マネジャーの役割は、「答えを教える」から「判断を育てる」へ
ここでも、マネジャーの関わり方が重要になります。
部下の行動が期待と違ったとき、「こうしてください」と正解を教えることは、短期的には有効です。しかし、それだけでは、似たような場面が来るたびに、上司の指示を待つことになります。
一方で、
「どう考えて、この判断をしたのか?」
「他にはどんな選択肢があった?」
「今の戦略を踏まえると、どの判断がよさそう?」
と問いかければ、部下自身が判断する機会をつくることができます。
これは、単に「考えさせる」ということではありません。
戦略に沿って、自分で判断し、行動を選べる人を育てること。
それが、これからのマネジメントに求められる役割ではないでしょうか。
「行動変革」は、行動だけを変えることではない
ここまで見てきたように、戦略を現場で実行するためには、
意味を理解する
↓
自分の役割を理解する
↓
何をするかを判断する
↓
実際に行動する
というつながりが必要です。
だからこそ、行動変革とは、「新しい行動を教えること」だけではありません。
その行動を選ぶもとになっている、
「何を大切にするのか」
「何を正しいと考えるのか」
「この状況で、どう判断するのか」
まで見直していくことです。
これまでの経験で身につけた判断基準を否定するのではありません。環境や戦略が変わったなら、それに合わせて判断もアップデートする。その積み重ねによって、人は「自ら変わる」ことができるようになります。
あなたの組織では、「行動の断絶」が起きていませんか?
次の問いから、自社の状態を振り返ってみてください。
- 「主体性」「挑戦」「顧客起点」などの言葉が、具体的な行動に落ちていますか?
- 新しい戦略に対して、「何をするか」だけでなく「どう判断するか」まで共有されていますか?
- 期待と違う行動があったとき、その理由や判断の背景を確認していますか?
- 「これまでの正解」が、今の戦略にも合っているかを問い直していますか?
- メンバーが自分で判断し、行動を選ぶ機会がありますか?
もし曖昧なところがあれば、そこに「行動の断絶」が起きている可能性があります。
戦略を「自分で判断し、動ける」組織へ
戦略は、経営会議で決めただけでは実現しません。
現場の一人ひとりが、
「この戦略なら、自分はどう考えるのか」
「この状況では、何を優先するのか」
「これまでとは、何を変えるのか」
を自分で判断し、その判断に基づいて行動して、初めて戦略は動き始めます。
そして、そのためには、戦略を伝えるだけでも、役割を変えるだけでも足りない。人が日々行っている「判断」に目を向けることが必要です。
これこそが、「行動を変える」ということを、表面的な行動だけで捉えないための重要な視点です。
では、行動は変わった。その次に必要なことは?
「意味」をつなぎ、「役割」を変え、「行動と、そのもとになる判断」を変える。ここまで来れば、戦略は現場で動き始めます。
しかし、ここで終わりではありません。
研修や学習の場で「分かった」「できそう」となっても、現場に戻ると元のやり方に戻ってしまう。そんな経験はないでしょうか。
次回は、5つの断絶の4つ目、「実践の断絶」を取り上げます。
「研修したのに、なぜ現場で使われないのか?」
知識やスキルを身につけることと、実際の仕事で使い続けることの間には、もう一つの壁があります。学びを現場の実践につなげ、行動を定着させるためには何が必要なのかを考えます。
戦略実装の「5つの断絶」を、自社でチェックしてみませんか?
戦略を現場の変化につなげるためには、意味 → 役割 → 行動 → 実践 → 進化という一連のつながりが重要です。
今回取り上げた「行動の断絶」はその3つ目です。自社では、どこで戦略が止まっているのか。「AX組織変革実践ガイド」では、5つの断絶の状態を確認できるセルフチェックをご用意しています。ぜひ、自社の戦略実装を振り返るきっかけとしてご活用ください。







