
「研修したのに、なぜ現場で使われないのか?」 ~学びを「できる」に変える、実践の設計とは~
「研修では、みんな熱心に学んでいました」
「アンケートの満足度も高かったです」
「ところが、数カ月たつと、現場では以前とあまり変わっていない……」
人材育成に携わる方なら、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。
研修を実施する。
知識やスキルを身につける。
「明日から現場で活かしてください」と送り出す。
それなのに、なかなか行動が変わらない。
これは、社員の意欲や能力だけが原因なのでしょうか。
実は、もう一つ考えなければならないことがあります。それは「学んだことを、実際の仕事で試す仕組みがあるか」ということです。
研修と現場の間には、「実践」という一段階がある
研修を受ければ、すぐに仕事で使えるようになる。私たちはつい、そんな前提で育成を考えてしまいます。
しかし、知識として「分かる」ことと、実際の仕事で「できる」ことの間には、距離があります。
例えば、マネジャー研修で、
・部下へのフィードバックの方法を学んだ
・1on1での質問の仕方を学んだ
・部下に考えてもらうための関わり方を学んだ
としても、それだけで翌日から自然に実践できるとは限りません。
実際の仕事では、相手の反応があります。時間も限られています。「ここで言っていいのだろうか」と迷うこともあります。
そして、やってみた結果、「思ったようにいかなかった」ということもあるでしょう。
だからこそ、学びを現場で使えるものにするには、「実践する機会」そのものを設計する必要があります。
「研修→現場」だけでは、行動は定着しにくい
研修を終えた後、「ぜひ現場で実践してください」と伝えるだけになっていないでしょうか。
もちろん、本人の意識や意欲も大切です。
しかし、「現場で活かしてください」と言われただけでは、いつやればいいのか、どの仕事でやってみればいいのか、などが曖昧なままです。やれる人もいるでしょう。しかし、日常業務に追われるうちに、研修で学んだことが後回しになってしまうことは少なくありません。
ここに、戦略実装における「実践の断絶」があります。
JECCでは、「実践の断絶」を、期待する行動が定義されていても、それを繰り返し試し、フィードバックを受ける機会が設計されていない状態と捉えています。
つまり問題は、「研修をしたかどうか」ではなく、「研修で学んだことを、現場で実践できるようになっているか」なのです。
「やってください」ではなく、「やれるところまで設計する」
では、どうすればよいのでしょうか。
ポイントは、研修を「学習の場」で終わらせず、現場での実践までを育成の一部として設計することです。
例えば、研修後に、「学んだことを仕事で活かしてください」で終わるのではなく、「次の1カ月で、この行動を3回実践する」というところまで具体化します。
さらに、
・どの業務で試すのか
・いつ試すのか
・誰がフォローするのか
・何を振り返るのか
まで決めておく。
こうすることで、「学んだけれど、いつ使えばいいか分からない」という状態を減らすことができます。
大切なのは、「一度やって終わり」にしないこと
もう一つ重要なのが、実践→フィードバック→再実践です。
新しい行動は、一度やっただけで身につくとは限りません。
むしろ、「やってみたけれど、うまくいかなかった」という経験こそ、次の実践につながる材料になります。
例えば、マネジャーが部下との対話で新しい質問を試したとします。
その後、
「どこがうまくいった?」
「相手はどんな反応だった?」
「難しかったのはどこ?」
「次は何を変えてみる?」
と振り返る。
そして、もう一度試してみる。
この繰り返しによって、研修で学んだ「知識」が、少しずつ本人の「できる」に変わっていきます。
JECCの考える実践の循環は、学習 → 練習 → 現場実践 → フィードバック → 再実践です。
研修をゴールにするのではなく、実践のスタート地点にする。ここに、育成を行動変容につなげるポイントがあります。
AI時代だからこそ、「実践」の価値は高まる
このことは、AI活用を進める組織にとっても重要です。
AIによって、知識を得たり、情報を整理したり、アイデアを出したりすることは、以前より簡単になりました。
だからこそ、これからの人材育成では、「何を知っているか」だけでなく、「学んだことを仕事の中でどう使い、試し、改善できるか」がますます重要になります。
AIに教えてもらう、AIと壁打ちする、AIにロールプレイの相手をしてもらう、こうした学習方法も、実践につなげてこそ価値があります。
AIを使って効率的に学ぶことができても、その学びが現場の行動につながらなければ、組織は変わりません。
だからこそ、AI時代の人材育成では、「学習の効率化」だけでなく、「実践と改善のサイクルをどうつくるか」まで考える必要があります。
マネジャーの役割も、「教える」から「実践を支える」へ
実践を定着させるうえで、マネジャーの存在も重要です。
研修後の部下に、「研修で何を学んだ?」と確認するだけではなく、「どんな場面で試せそう?」「まず、どこからやってみる?」「やってみて、どうだった?」「次は何を変えてみようか?」と、実践そのものを支える。
マネジャーが「答えを教える人」だけではなく、学びを現場で試し、振り返り、もう一度試すことを支援する人になる。そうすることで、研修と日常業務がつながっていきます。
あなたの会社では、「実践」がつながっていますか?
ここで、一度チェックしてみましょう。
・研修や育成施策で、身につけるべき期待行動が明確になっている
・本番前に、安全に失敗しながら反復できる練習機会がある
・研修後、実際の業務で試す具体的な課題が設定されている
・実践後、短い期間で具体的なフィードバックを受けられる
・「受講したか」だけでなく、実践回数や習熟度を把握している
一つでも「YESと言い切れない」ものがあるなら、「学び」と「能力の定着」の間に、実践の断絶があるのかもしれません。
研修を増やす前に、「実践」を設計する
人材育成の課題に直面すると、「もっと研修が必要なのではないか」と考えがちです。
もちろん、新しい知識やスキルを学ぶ機会は必要です。しかし、研修を増やすだけでは、現場の行動は変わりません。
大切なのは、学ぶこと・試すこと・振り返ること・そしてもう一度試すこと、この循環を、組織の中につくることです。
戦略を実現するために必要な行動が定義されても、それが現場で繰り返されなければ、組織の力にはなっていきません。
「研修を実施する」から、「現場で実践できるところまで育てる」へ。
それが、学びを組織の変化につなげるための一歩です。
そして、実践を繰り返した先には、もう一つ重要な問いがあります。「実践した結果を、次の育成やマネジメントの改善につなげられているか?」
次回は、5つの断絶の最後、「評価しているのに、なぜ組織は進化しないのか?」をテーマに、実践の結果を次の変化につなげる「進化の断絶」について考えます。
戦略実装の「5つの断絶」を、自社の状態から確認してみませんか?
戦略が現場で実行され、組織の変化につながるまでには、いくつもの接続点があります。あなたの組織では、どこに「断絶」が起きているでしょうか。
「AX組織変革実践ガイド」では、5つの断絶を確認できるセルフチェックと、戦略実装を進めるための考え方を紹介しています。
「研修はしているのに、なかなか行動が変わらない」
「育成施策が現場の成果につながっている実感がない」
そんな課題を感じている方は、ぜひ自社の現在地を確認してみてください。







