
人事異動で崩れるのは“関係性と前提” 第3回:“前任者ロス”をどう乗り越えるか
人事異動というと、つい「異動する側」や「新任マネジャー」に目が向きがちです。
しかし、実際に最も大きな影響を受けているのは、その場に“残る側”、つまりメンバーです。
これまで一緒に仕事をしてきた上司が異動する。
新しいマネジャーが着任する。
その変化は、制度上は当たり前のことでも、現場にとっては決して小さなものではありません。
異動直後の現場で、こんな声を耳にすることがあります。
・「前の上司は分かってくれていたのに」
・「今はまだ、どう動けばいいか分からない」
・「何となくやりづらい」
こうした状態はしばしば、“前任者ロス”と表現されます。
しかし、この“ロス”の正体を「人がいなくなったこと」だけで捉えてしまうと、本質的な対応にはつながりません。
失われているのは、“人”そのものではなく、その人との間に築かれていた「関係性」と「意味」です。
失われるのは「やり方」ではなく「前提」
前任者とメンバーの間には、日々の積み重ねによって形成された独自の関係があります。
例えば、
・この人には、ここまで踏み込んで相談していい
・この状況では、あえて任せてくれる
・このテーマは、こういう基準で判断される
こうした前提は、明文化されることはほとんどありません。
しかし、チームが機能する上では極めて重要な“見えないルール”です。
前任者が異動することで失われるのは、単なる業務のやり方ではなく、この“前提”です。
そのためメンバーは、新任マネジャーに対して
「何をすれば評価されるのか」「どこまで任されるのか」が分からなくなります。
結果として起きるのが、第1回で触れた“様子見”です。
比較と沈黙が、関係性の再構築を遅らせる
“前任者ロス”の中で特徴的なのは、「比較」と「沈黙」です。
➤新しいマネジャーに対して、無意識のうちに前任者との違いを感じる。
しかし、それをそのまま言葉にすることは難しい。
➤「前の方がよかった」とは言いづらい。
かといって、新しいやり方にすぐ適応できるわけでもない。
その結果、多くの現場で起きるのは、本音が出ないまま、表面的には順応している状態です。
- 指示には従うが、主体的には動かない
- 意見を求められても、無難な発言にとどまる
- 問題があっても、あえて言わない
一見すると問題がないように見えますが、
この状態が続くと、チームの成長も改善も止まってしまいます。
“前任者ロス”を乗り越える鍵は「言語化」
では、この状態をどう乗り越えていけばよいのでしょうか。
重要なのは、「自然に馴染むのを待つこと」ではありません。
むしろ必要なのは、これまで暗黙だったものを意図的に言語化することです。
ポイントは大きく2つあります。
「これまで」を言語化する
まず必要なのは、前任者のもとで成り立っていたやり方や関係性を、“振り返り、言葉にすること”です。
・どんなやり方がうまくいっていたのか
・どんな関係性がチームを支えていたのか
・何を大切にしてきたのか
これを曖昧なままにしてしまうと、新任マネジャーのやり方はすべて「上書き」として受け取られてしまいます。
しかし、「これまで」が言語化されていれば、それは“否定されるもの”ではなく、“引き継ぐべき資産”として扱うことができます。
「これから」をすり合わせる
その上で重要なのが、「何を残し、何を変えるのか」を対話することです。
新任マネジャーが一方的に決めるのではなく、メンバーとともに考え、すり合わせていきます。
・これまでのやり方で続けたいことは何か
・新たに取り入れたい考え方は何か
・このチームとして、これから何を大切にするのか
このプロセスを経ることで、変化は“断絶”ではなく、“連続性のある進化”として受け止められるようになります。
問われているのは「引き継ぎの質」である
人事異動において、「引き継ぎ」というと業務の移管に目が向きがちです。
しかし、本当に引き継ぐべきものは、それだけではありません。
・どのような関係性が築かれていたのか
・どのような前提で意思決定が行われていたのか
・どのような価値観がチームを支えていたのか
こうした“見えない資産”をどこまで引き継げるか。それが、異動後の立ち上がりを大きく左右します。
関係性は「自然にできるもの」ではなく「設計するもの」
“前任者ロス”は、避けられないものではありません。
しかし、何もしなければ自然に解消されるものでもありません。
関係性は、時間とともに育まれる側面もありますが、同時に意図的に設計することができるものでもあります。
人事異動とは、人を入れ替えることではなく、チームの関係性と前提を再構築する機会です。
その視点に立てたとき、“ロス”は単なる喪失ではなく、次のステージへの転換点になります。
次回は、「異動を“育成機会”に変えられる組織、潰してしまう組織」をテーマに、こうした状態を乗り越え、変革を“組織文化として定着させる”ための考え方を整理します。






