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経験を「組織の資産」に変える―お役立ち道と組織学習の接点

「経験から学ぶ」ことは、誰にとっても自然な成長の源泉です。
では、企業やチームといった「組織」にとっての経験学習とは何でしょうか?

現場での成功や失敗から学び、それを活かして次の挑戦につなげる―このサイクルを、個人だけでなく組織全体で回していくことができたら、組織は日々進化し、持続的な成長を達成できるはずです。

今回のコラムでは、経験学習を「個人」にとどめず、「組織学習」として活かすための考え方を、「お役立ち道」の視点からひもときます。


組織学習とは、組織のルーティンの変化

ここでは、組織学習を「経験を資産化し、組織のルーティン(行動のパターンや業務の進め方)を変化させること」と捉えます。 その中で特に、経験を学びに変える仕組みとしての「経験学習サイクル」に着目します。
 
経験学習サイクルとは、「経験/内省/概念化/実践」のサイクルを回すことで、学びを深めていくプロセスのことです。※1
米国の組織行動学者コルブが提唱したこの理論は、個人の成長だけでなく、組織の学びにも応用できるものです。

ところが現実には、多くの企業で「経験はしているのに、組織としては学べていない」状況が起こっています。
 
「経験しているのに学べていない」―この現象の背景には、経験の意味づけや共有のプロセスが設計されていないという課題があります。

たとえば、ある営業チームで成果が出たとしても、その学びが他のチームや次世代メンバーに伝わらず、「やった人だけのノウハウ」で終わってしまう。これでは、組織としての進化が止まってしまいます。
 
では、どうすればよいでしょうか。
 ポイントは、「学びを共有し、言語化し、再現可能にする」ことです。
つまり、個人の経験を、組織全体の「資産」として蓄積・展開できるようにすることが重要です。


「お役立ち道」の考え方が学びを循環させる

ここで役立つのが、「お役立ち道」の考え方です。
「お役立ち道」とは、お役立ちの精神と技量を極め続けることです。一人ひとりが「社会や他者の役に立つこと」を軸に、仕事の意味を見出し、自己変革に挑み続ける生き方・働き方ともいえます。
 
この価値観が組織に根づくと、メンバーは「学びを独占せず、次工程や他者のために活かす」ことを自然と意識するようになります。
 
たとえば、成果が出たときには、その背景を整理し、「なぜうまくいったのか」をチームで共有したり、失敗したときには、その失敗から得た教訓を言語化してナレッジとして残したりする文化が育ちます。
 
こうした行動が積み重なることで、組織の中に「学びの循環」が生まれてきます。
 
なぜ、このような循環が生まれるのでしょうか。
それは、一人ひとりが「自分の経験を他者の役に立てたい」と願い、実際にそのために行動しているからだといえます。
まさに、「お役立ち道」の精神が組織の文化として根づいている証といえるでしょう。
 
つまり、経験学習サイクルの中心には、一人ひとりのお役立ちの方向と、組織全体のお役立ちの方向(理念や社是、パーパスなど)を重ね合わせた「組織全体のお役立ち」が据えられます。
この共通軸のもとで、経験→内省→概念化→実践のサイクルを、個人だけでなく組織全体で回していく―そのような学習のイメージです。
 
これにより、個人の気づきが組織全体の意味づけと接続され、日々の仕事の中で実践と再構築が繰り返される「学習する組織」の文化が根づいていきます。


「お役立ち道」が促す、実践的なメタ認知

ジェックでは、個人の行動の背後にある「行動理論」が、行動を方向づけていると考えています。「行動理論」とは、これまでの経験を通じて心に刻まれた「自分なりの信念」(ジェック独自の概念)です。
 
この行動理論に気づき、よりよい方向に変えていくことが、真の意味での行動変容(自己変革)をもたらします。
 
たとえば、「上司に相談すると面倒になる」という信念があったとします。これに気づき、「相談することでチーム全体の成果が上がる」という新たな信念に置き換えることで、行動が変わっていきます。
 
実はこれも、「経験学習サイクル」に通じる営みです。
 
つまり、経験を「振り返る」だけでなく、その背景にある自分の考え方・捉え方をメタ認知し(自分自身の心の動きを客観的、俯瞰的に観察して、なぜ、そういう行動を取ったのかを理解し、必要であれば修正すること)、「どうすればもっと役立てるか」を考え、それを言語化するのです。
 
言語化によって、行動の前提にあった「自分なりの法則」を知ることができます。
 
それがわかれば、「よりよく役立つにはどうすればいいか?」という具体的な方向性を考えることができるようになります。
そしてその考えに従って、新しい行動にチャレンジする準備が整います。
 
こうしてできた言葉と行動によって成功体験を積み重ねることで、その言葉は、自分の「座右の銘」となり、成功体験の再現性が高まり、次の挑戦がしやすくなります。※2

このメタ認知の習慣が、組織学習の土壌になります。
そして、その前提にあるのが「役に立ちたい」という内発的動機です。


おわりに

組織学習とは「経験を共有し、意味づけ、再現可能な形で次につなげる」という営みであり、それを支えるのが、お役立ちの精神です。一人ひとりのお役立ちに基づいた経験を、組織全体のお役立ちの学びへと昇華させていきましょう。
どんな小さな経験も、誰かの気づきに変わるかもしれません。 あなたの「振り返り」が、組織の未来を創ります。
 
さあ、ここで立ち止まって、今日を振り返ってみましょう。
今日の経験は、どんな「気づき」を生みましたか?
その気づきは、誰の役に立ちそうですか?



※補足一覧

※1 経験学習サイクルと「自分の行動選択の理由」

※2 メタ認知で行動選択の理由を可視化しよう/お役立ち道実践ガイド【第5話】





株式会社ジェック 川田隆也
株式会社ジェック 川田隆也
イノベーション共創部所属。理念に基づく組織変革と人材開発の理論構築・実装を担当。持続可能な経営を支えるコンサルティング手法の開発と、その社内外への展開に注力している。複雑な時代だからこそ、人と組織の可能性を信じ、変化をともに創り出す姿勢を大切にしている。

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