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インクルーシブ・リーダーシップとは? ―「違い」を力に変えるリーダーのあり方

ダイバーシティやDEIという言葉は、多くの方が耳にするようになりましたが、「インクルーシブ・リーダーシップ」という言葉には、まだ馴染みがない方も多いのではないでしょうか。
インクルーシブ・リーダーシップとは、組織の多様性を尊重し、すべてのメンバーが自分の意見やアイデアを自由に表現し、組織全体の力を最大限に引き出すリーダーシップスタイルです。

今、多様性を「活かす」組織づくりの鍵として、世界中の企業や学術界でこのリーダーシップスタイルが注目されています。


「インクルーシブ・リーダー」とは何をする人?

インクルーシブ・リーダーとは、「多様な人が“自分らしく”働きながら、安心してチームの一員として貢献できる環境をつくる人」のことです。
この定義は、Nembhard & Edmondson(2006)が提唱した「Leader Inclusiveness(リーダーの包摂性)」― “リーダーが他者の貢献や挑戦を積極的に奨励し、承認を示す言動”  に基づいています(Nembhard & Edmondson, 2006)。
また、Randelら(2018)は、「従業員の帰属意識を育み、その独自性を価値づけ、排除を防ぐ行動」として、現代的な定義を与えています(Randel et al., 2018)。

たとえば、以下のような行動が特徴的です。
・違う意見にも耳を傾ける
・話しやすい雰囲気をつくる
・自分のバイアス(思い込み)に気づこうとする
・みんなが活躍できるよう役割や働き方を柔軟に考える

つまり、“みんなが声を出しやすい” チームを育てるリーダーです。



なぜ今、注目されているのか?

背景には、社会の価値観や働き方が多様化したことがあります。かつての日本企業では「みんな同じであること」が前提でした。
しかし、現代では働き方も価値観も家族のかたちも人それぞれです。海外との協働や、ジェンダー・年齢・障がいなどの違いがある職場も増えています。
こうした変化の中で、「違いを乗り越え、共に働ける」リーダー像が求められているのです。


学術的なアプローチ

インクルーシブ・リーダーシップの学術的起源は、Nembhard & Edmondson(2006)が新生児集中治療室の医療現場でのリーダー行動を分析した研究に遡ります。この研究では、「医師が看護師の主体性を奨励する」「医師がチームメンバーの意見を求める」などの設問により、リーダーの包摂的行動が “心理的安全性” に与える影響が実証されました(Nembhard & Edmondson, 2006)。
 
その後、Carmeliら(2010)は、インクルーシブ・リーダーシップを「開放性」「近接性」「有効性」という3つの視点で再構築し、組織内の創造性や安全な挑戦を促す条件として重視しました(Carmeli et al., 2010)。
また、Randelら(2018)は、インクルーシブ・リーダーシップを「従業員の帰属意識を育み、その独自性を価値づけ、排除を防ぐ行動」として包括的に定義しています(Randel et al., 2018)。
 
また、Deloitteが発表した「インクルーシブ・リーダーの6つの特性(コミットメント、勇気、バイアス認識、好奇心、文化知性、協働)」は、実務の現場でも広く参照されています(Deloitte, 2016)。


インクルージョンと帰属感 ― インクルーシブ・リーダーの本質的役割

Randel et al. (2018)は、インクルーシブ・リーダーが「Inclusion(包摂)」と「Belongingness(帰属感)」の実現に中心的な役割を果たすことを指摘しています。
すなわち、従業員が「組織に受け入れられている(Belongingness)」と感じる一方で、「自分らしさ(Uniqueness)」も認められていると感じること ― この両立が職場におけるポジティブな成果につながると述べられています(Randel et al., 2018)。
 
・「違いがあっても仲間だ」と感じられる空気をつくる
・「ここにいていい」と思える場をつくる
これはまさに、「人の力を引き出す」ことに本気で向き合うリーダーの姿です。


「お役立ち道」との接点 ― “違い” を大事にする風土づくりへ

ジェックが提唱する「お役立ち道」は、「誰かの役に立つことで、自分自身が満たされる」あり方です。この考え方は、一人ひとりの「違い」や強みを認め合い、それぞれが自分らしさを発揮しながら、互いに助け合い・高め合うことで、組織全体としてより大きな価値や成果を生み出す点が特徴です。
 
インクルーシブ・リーダーシップもまた、多様な個性や考え方を尊重し、違いを受け入れながら、メンバー全員が安心して意見や力を発揮できる環境をつくることで、組織の力を最大限に引き出します。

つまり、「お役立ち道」とインクルーシブ・リーダーシップはいずれも、「一人ひとりの違いを尊重し活かし合うことが、組織や社会全体の価値創造や成長につながる」という点で深く共通しています。
 
「みんなと同じ」でいる安心も大切ですが、「みんなと違っていても、ここにいていい」と思えることは、もっと大切かもしれません。
 
あなたの職場では、「違いが尊重される空気」が育っていますか?
今こそ、インクルーシブ・リーダーシップの可能性を問い直すときです。



参考文献

Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior, 27(7), 941–966.
 
Carmeli, A., Reiter-Palmon, R., & Ziv, E. (2010). Inclusive leadership and employee involvement in creative tasks in the workplace: The mediating role of psychological safety. Creativity Research Journal, 22(3), 250–260.
 
Randel, A. E., Galvin, B. M., Shore, L. M., Ehrhart, K. H., Chung, B. G., Dean, M. A., & Kedharnath, U. (2018). Inclusive leadership: Realizing positive outcomes through belongingness and being valued for uniqueness. Human Resource Management Review, 28(2), 190–203.
 
Deloitte. (2016). The six signature traits of inclusive leadership. Deloitte University Press.


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株式会社ジェック 川田隆也
株式会社ジェック 川田隆也
イノベーション共創部所属。理念に基づく組織変革と人材開発の理論構築・実装を担当。持続可能な経営を支えるコンサルティング手法の開発と、その社内外への展開に注力している。複雑な時代だからこそ、人と組織の可能性を信じ、変化をともに創り出す姿勢を大切にしている。

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