
多世代が協働する職場づくり ― 世代を超えた学びとリーダーシップ
「最近の若い人は……」。職場において、この言葉が交わされなかった時代は、おそらく一度もないのではないでしょうか。
しかし今、この古典的な嘆きは、これまで以上に現実のマネジメント課題として意識されるようになっています。国際的な人事専門機関SHRMの実務ガイドによれば、現代の職場にはベビーブーマー世代からZ世代まで、最大5つの世代が同時に在籍しています(SHRM, 2024)。それぞれが異なる時代に育ち、異なるテクノロジー環境で働き始め、異なる労働観や成功の定義を持っている。この多様性は、うまく活かせば組織の大きな強みになりますが、放置すれば深刻な分断と対立の温床にもなり得ます。
2025年に開催された人材開発の世界最大級のカンファレンス「ATD25」(5月18〜21日、ワシントンD.C.)においても、この課題は重要テーマとして取り上げられました。Conscious Leadership Partners CEOのカロライナ・カロ氏によるセッション「Unlearning: The Conscious Path to Cultivating a Cohesive, Multigenerational Workplace(アンラーニング:結束力ある多世代職場を育む意識的な道)」では、世代間の対立を乗り越えるための実践的なフレームワークが紹介されました(Caro, 2025a)。
本コラムでは、なぜ多世代の協働がこれほど難しいのか、そしてリーダーはどのようにして世代を超えた「学び合いの場」を築くことができるのかを考察します。
「自動操縦モード」という見えない壁
ある研修の場面を思い浮かべてください。50代のマネジャーが、入社3年目の部下について腕組みをしながらこう漏らします。「あいつは定時になるとピタッと帰るんだよ。仕事への責任感がないんじゃないかと思うんだ」。一方その部下は、別の場で同僚にこう話しています。「課長はなぜ非効率なやり方にこだわるんだろう。結果を出せばいいのに、過程ばかり見ている」。
どちらも、自分の言い分に確信を持っています。そして、どちらも相手を「理解できない存在」として片付けている。この構図に心当たりのある方も多いかもしれません。
ATD25(Association for Talent Development 2025 International Conference & EXPO)でカロ氏が指摘したのは、こうしたすれ違いの根底にある「世代的条件づけ(Generational conditioning)」の存在です(※1)。これは、育った時代の社会的・経済的・技術的環境が、私たちの価値観や判断基準を無意識のうちに形づくっているという考え方です。
例えば、バブル期に社会人になった世代には、「長時間の献身=誠実さ」という感覚を身につけてきた人が少なくないかもしれません。一方、デジタルネイティブ世代には、「効率的な成果=合理性」という感覚の中で育ってきた人が比較的多いと考えられます。いずれも、それぞれの時代においては自然なものでした。ただし、世代論はあくまで傾向を示すものであり、同じ世代の中にも大きな個人差がある点には留意が必要です。
厄介なのは、この条件づけが「自動操縦モード」として作動することです。苛立ちや不満が湧いた瞬間、私たちは考えているようでいて、実は反射的に相手を「決めつけ」てしまっていることが多いのです。組織心理学者アージリスとショーンが「ダブルループ学習」で示した通り(Argyris & Schön, 1978)、行動の修正だけでなく、行動を支配する前提そのものを問い直すことが、世代間協働の出発点となります。
POCA®モデル:「小さな一歩」で関係性を再構築する
では、この自動操縦モードをどのように解除すればよいのでしょうか。ATD25でカロ氏が紹介したのが、POCA®モデルです(※2)。「POCA」はスペイン語で「小さい」「わずかな」を意味する形容詞に由来し、大きな変革ではなく、日常の小さな実践(Small, aligned steps)の積み重ねによって変化を生み出すという哲学を体現しています(Caro, 2025b)。
P :Pause(立ち止まる)
まず、反射的に反応しそうになった瞬間に意識的に立ち止まること。「またか」「信じられない」と感じた瞬間こそが、自動操縦モードが作動しているサインです。深呼吸一つでも、数秒の沈黙でもよい。反応と行動の間に「隙間」を作ることが、すべての始まりです。
O:Observe(観察する)
次に、自分の内面を観察します。カロ氏はこのObserveフェーズの指針として「3つのB」を提唱しています(※2)。
・Beliefs(信念):「仕事とはこうあるべきだ」という思い込みはどこから来ているのか。
・Body(身体):緊張や苛立ちが身体のどこに現れているか。
・Behaviors(行動):無意識に取っている行動パターンは何か。
この自己観察のプロセスは、マインドフルネスの実践とも通じるものですが、ここでのポイントは「自分の知覚」と「現実」を分けて捉えることです。
C:Choose(選ぶ)
観察を通じて自分の自動操縦モードに気づいたら、次は異なる対応を意識的に選びます。いつもなら「こうすべきだ」と指示していた場面で、「あなたの視点を聞かせてほしい」と問いかけてみる。正解を教えるのではなく、相手の文脈を理解しようとする姿勢を選ぶことがポイントです。
A:Act(実践する)
最後に、選んだ新しい行動を小さく実践します。カロ氏が強調するのは、この「小ささ」です。「すべてを変える」のではなく、「一つの反応を変える」。例えば、「返答する前に3秒待つ」「解決策を提示する前に質問を一つ加える」「沈黙を許容する」。こうした微細な変化の蓄積が、やがて関係性全体の質を変えていきます。
アンラーニング:過去の強みが現在の足枷にならないために
POCAモデルの根底にあるのは、「アンラーニング(学びほぐし)」という概念です。ここで言うアンラーニングとは、過去の経験を否定することではありません。それは、かつて有効だった思考や行動のパターンが、変化した環境のなかでもはや機能しなくなっていることを認識し、意識的に手放すプロセスです。
こうした「前提の問い直し」の重要性は、組織学習論においても古くから指摘されてきました。組織心理学者のクリス・アージリスらが提唱した「ダブルループ学習」は、行動を支配する価値観そのものを修正するプロセスを扱います。また、アンラーニング論の古典的な論者の一人であるボー・ヘドバーグは、新しい知識を獲得するためには、まず古い知識を意識的に「捨て去る(discard)」プロセスが不可欠であると説いています(Hedberg, 1981)。
両者は、組織や個人が変化に適応するために、慣れ親しんだ枠組みを動的に更新し続けるという共通の方向性を示唆しています。
例えば、かつて「厳しく指導することが部下の成長につながる」と信じて成果を上げてきたリーダーにとって、Z世代の部下に対して「傾聴と対話」を重視するスタイルへの転換は、単なるスキルの追加ではなく、これまで培ってきたリーダーシップに関するアイデンティティの再構築を伴います。このプロセスが困難であればあるほど、POCAモデルのような「小さな一歩」のアプローチが有効に機能するのです。
「お役立ち道」への接続:世代の壁は、実は「お役立ち力」の壁でもある
私たちジェックが長年大切にしてきた「お役立ち道」の視点から、多世代の協働をもう一段掘り下げてみたいと思います。
多世代の職場でしばしば見落とされるのは、世代間の軋轢がお客様への価値提供の質にも影響を及ぼしかねないという点です。ベテランが「自分のやり方」に固執し、若手が「上の世代はわからない」と距離を取る。その分断の間で失われているのは、ベテランだけが持つ暗黙の顧客理解と、若手が持つ新しい市場感覚の掛け合わせです。
この課題に先駆的に取り組んだ例として知られるのが、GE(ゼネラル・エレクトリック)の「リバースメンタリング(逆メンタリング)」です。当時CEOのジャック・ウェルチ氏が1999年に導入し、若手社員がベテラン幹部にデジタル活用や新しい市場動向を教えるこの仕組みは、その後多くのグローバル企業に広がりました(Murphy, 2012)。
注目すべきは、この仕組みが単なる知識移転にとどまらない点です。ベテランが「教わる側」に回ることで、自身の自動操縦モードに否応なく気づく。若手は「教える側」に立つことで、相手の文脈を理解しようとする姿勢が育つ。つまりリバースメンタリングは、POCAモデルの実践の場そのものになり得るといえます。
世代の壁を超えた協働が生み出すのは、職場の雰囲気改善だけではありません。単一世代では到達できない、深みのあるお役立ちこそが、多世代がともに働くことの本質的な価値といえるのではないでしょうか。
「わかり合えない」から始まる協働
世代間の条件づけは完全には解消されないかもしれません。例えば、50代のマネジャーが20代の価値観を「心の底から」理解することも、その逆も、おそらく難しいでしょう。
しかし、わかり合えないことを前提にした上で、それでも一緒に働く。ここにこそ、多世代職場の本質があるのではないかと筆者は考えます。
POCAモデルの価値は、相互理解の「完成」を目指すところにはありません。自動操縦モードが作動した瞬間に、ほんの一拍だけ立ち止まる——その「小さな隙間」を日常に重ねていく営みにこそ、意味があります。
「最近の若い人は……」。冒頭のこの言葉は、おそらくこれからも職場から消えることはないでしょう。ただ、その言葉が口をついて出た瞬間に、「待てよ、これは自分の自動操縦かもしれない」と気づける人が一人増えるだけで、チームの空気は確実に変わっていくでしょう。
【参考文献】
Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational learning: A theory of action perspective. Addison-Wesley.
Caro, C. (2025a, May 18–21). Unlearning: The conscious path to cultivating a cohesive, multigenerational workplace [Conference session]. ATD25 International Conference & EXPO, Washington, DC, United States.
Caro, C. (2025b, December 15). Unlearning strategy: The POCA® framework for 2026. Conscious Leadership Partners Blog. https://carolinacaro.com/2025/12/15/unlearning-strategy-poca-framework-2026/
Hedberg, B. (1981). How organizations learn and unlearn. In P. C. Nystrom & W. H. Starbuck (Eds.), Handbook of organizational design (Vol. 1, pp. 3–27). Oxford University Press.
Murphy, W. M. (2012). Reverse mentoring at work: Fostering cross-generational learning and developing millennial leaders. Human Resource Management, 51(4), 549–573.
Society for Human Resource Management. (2024). Managing a multigenerational workforce [Practical guide]. https://www.shrm.org/topics-tools/tools/express-requests/strategies-for-managing-a-multigenerational-workforce
※1:「世代的条件づけ(Generational conditioning)」は、Conscious Leadership Partners CEOのカロライナ・カロ氏がATD25セッションおよび同社の発信において用いているコンセプトに基づく。
※2:POCA®モデルおよびObserveフェーズの「3つのB」は、Caro(2025b)に基づく。詳細は参考文献記載のCaro(2025b)を参照。







