総合電機メーカー富士電機のフィールドサービス統括部では、「需要創造型フィールドサービスへの変革」を進めるべく、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。2018年度から本格的に始まった取り組みによって、社員の意識はどのように変わったのか。また、目に見える具体的成果は出ているのか、将来的な目標は…。統括部長の梶原清貴様と、事業企画部部長の石松洋志様に、前回に続いてお話をうかがいました。
------ 部長層のプロジェクトでは、何をしたのですか?
梶原 最初に「FSビジョン(FS=フィールドサービス)」という共通のビジョンを作り上げました。部長全員が自分の言葉で意見を出し、3行のビジョンを作ることに丸二日間を費やしました。プロジェクトを組んで話し合う中で、彼らもどんどん変わっていきました。「中期経営計画のためっていうけれど、それはゴールじゃないよね」という話になり、では長期的な目標って何だろうという議論にまで発展していきました。
------ フィールドサービス統括部(以下、FS統括部)の長期計画ということでしょうか?
石松 そうです。私たちは2028年度までの長期計画を立て、売上高3,000億円、利益率30%という目標を独自に立てました。
梶原 この目標の素晴らしいところは数値ではありません。お客様の変革と発展に貢献する「デザインセンターとなる」という言葉が生まれたことです。それまで私たちは、需要創造型のサービスを展開するために「マーケティングセンターになること」を目指そうとしていました。ところがある部長から、着地点はそこではない。お客様のニーズをデザインするような場所つまり「デザインセンターになろう」という意見が出されたのです。これは本当に衝撃でした。ここまで前向きに意識が変わってくれたのかと思いましたね。
------ ビジョンを社員の方たちに浸透させるには工夫が必要だと思います。部長の皆様が作ったビジョンをどのようにして、全員で共有したのですか?
石松 紙に書いて貼りだしても絵に描いた餅になってしまうと思ったので、動画を作って配信しました。堅苦しいと見てくれないので、本編を「令和」を発表した時の官房長官のようにしたり、続編を「今でしょ!」で有名な先生の真似をしたり…。その動画をいきなり流すのではなく、「面白いのを作ったから見て」といった予告メールを1,500名全員に送りました。その後、冊子も制作して、そこには自分自身のビジョンを書き込むようになっています。
------ 現在は、どのようなプロジェクトが稼働しているのですか?
石松 2019年11月現在、10以上のプロジェクトが稼働しており、全FS部門員の3~4割が何らかの形でプロジェクトに関わっています。例えば、課長が部門横断課題の解決策を検討・実行するプロジェクトは4つのテーマに取り組んでいます。1つが「情報共有の仕組みを作る」、もう1つが「業務負荷の低減を図る」、そして「人財育成」「新しいサービスを作る」。それぞれ現場を仕切る課長をリーダーとして、4~5名で1つのチームになっています。現場課長がプロジェクトの責任者あるいはメンバーとして入り、そこに我々本部機能が加わる形です。アウトプットした施策の浸透に対してもプロジェクトチームがしっかり関与することになっています。
梶原 プロジェクトメンバーに現場の課長が加わることも大切ですが、その上司である部長がオブザーバーとして入り、はっぱをかけることがとても重要です。決定権のある人間が加わらないと「こんな提案をしても通らないだろ」という空気になってしまいます。会社は本気なんだと伝え続けることが、変革プロジェクトを成功させるカギだと思っています。
------ 次に成果についてお伺いしたいと思います。2018年度から変革プロジェクトに取り組み、どのような変化が生まれたのか教えてください。
梶原 変革の意味・必要性が共有できるようになったと思います。当初は「やる意味あるの?」という意識を強く感じました。それが「やる意味はあるよね」という段階までは変わってきています。
石松 2018年度はプロジェクトのプログラムやゴールをジェックさんに作っていただいて、それを実行していました。「自分事」という意識が足りなかったと思います。2019年度はプロジェクトの目的や企画を「自分たちのために自分たちで作り、それを自分たちで語る」という内容に変わってきています。アウトプットにもこだわり、成果を見える化していく努力を進めています。
------ 社員の意識が変わりつつあることで生まれた、具体的な成果はありますか?
梶原 象徴的なのがエコバッグですね。FS統括部には技術者をサポートする女性のアシスタントスタッフが100名ほどいて、書類の処理など庶務的な仕事をしています。ところがビジョンやプロジェクトの発表を通して、自分たちも新しいステージに立てるんだということが分かった瞬間、素晴らしい変化が起きました。技術者は普段、現場に行く時に会社の紙袋を下げていきます。何年も同じ袋を使っているので、ガムテープで補強してぼろぼろの袋を下げて行く人もいます。こんな袋を下げていって、お客様から信用されるのですか?お客様の夢をデザインできるのですか?という意見がアシスタントスタッフたちから出て、布製のエコバッグを作ることになりました。規格やデザインもすべて彼女たちが考え、1,500名全員に配布しました。
さらに、これまでバラバラだったお客様向けの報告書フォーマットを統一化して、デザインや紙質にまでこだわった報告書を企画提案してくれたのも、アシスタントスタッフの女性たちです。思考が柔軟だなと驚いています。
石松 男性にも変化がありました(笑)。先ほど挙げた4つのプロジェクトの1つに、私もオブザーバーとして参加しているのですが、メンバーから自発的に「こういうことをやりたいから、投資して欲しい」という言葉が出るようになりました。その金額で本当にできるの?もっと必要じゃない?というと「いいんですか。もう一回考え直します!」という言葉が返ってくるようになりました。こういう反応は今までありませんでしたね。
------ 部長や現場の課長が加わることで、プロジェクトを本気で考えられるようになったというお話がありましたが、社員の意識改革を進めていく上で、他にはどのようなことが役立ちましたか。
石松 2つあります。まず1つが可視化です。FS統括部をどうしていくべきか、それを言葉でいくら熱く語っても、聞いている側はそれだけで何となく理解したような気分になってしまいます。それが今回プロジェクトとして企画書にまとめることで可視化されました。可視化されたことでディスカッションできる土壌ができ、具体的に動くことができるようになりました。
もう1つが、コミュニケーションです。プロジェクトの打合せとして、無理やりでもメンバーを招集してコミュニケーションの時間を作ることがすごく重要です。最初のうちは会話がなかなか進まないので、ジェックさんにお願いしてファシリテーターを務めていただきながら、会話の活性化を図りました。その結果、部長や課長たちが、専門領域や、統括部・支社といった立場を超えて施策を共有するようになりました。日常業務でも組織の枠を超えた協力関係ができ始めています。
------ 最後に、今後の展望や方向性についてお聞かせください。
石松 FS統括部の技術者は現場の最前線に出ていく人間なので、常に短期の業績を求められます。お客様のご都合に合わせなければいけないため残業も多い部署です。こうした中で大きな変革を進めるには、通常業務の改善・効率化が不可欠です。プロジェクトのアウトプットを通じて、自分たちの業務が楽になったなど、目に見える成果が現れた時、1,500人全員のプロジェクトに対する意識がさらに大きく変わるだろうと考えています。その段階まで、もう一押しのところまで来ています。
梶原 1,500人の意識変革を行い、まったく新しいフィールドサービスのビジネスモデルを築いていく。まだ1ステップ2ステップ目ではありますが、大事なことは諦めないことだと考えています。FS統括部のトップである私が諦めないで変革を叫び続けていれば、やがて人が育ち、富士電機全体を引っ張っていけるような部署になるはずだと確信しています。
取材を終えて
「会社は本気なんだと伝え続けることが、成功させるカギ」「私が諦めないで変革を叫び続ける」とおっしゃる梶原様の強い想いがあってこその、お取り組みであるとあらためて実感いたしました。また、その想いをうけ、「FSビジョン」「デザインセンター」などの構想を現場から生み出し、自ら率先し実践しておられる石松様はじめ部課長の皆様と、全社員の皆様の奮闘ぶりがうかがえました。
ありがとうございました。
<富士電機株式会社>
●本社 東京都品川区大崎一丁目11番2号 ゲートシティ大崎イーストタワー
●設立 1923年8月
●資本金 47,586,067,310円
●従業員数 27,416名
●事業内容 変電や電源などに関わるパワエレシステムエネルギー、駆動機器や制御機器を取り扱うパワエレシステムインダストリー、半導体やディスクなどの電子デバイス、新エネルギーや火力発電などの発電プラント、自販機や店舗流通に関わる食品流通など、産業を支える電機機器の総合メーカー
(2019年3月31日現在)
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