
歴史を動かす行動理論 上杉鷹山(うえすぎようざん)を推察する 「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」
行動理論-それは、人の行動を方向づけているその人なりの信念のこと。 我々は、仕事をしている中で、常に自分なりに行動を選択している。 その選択が、正しいこともあれば、失敗することもある。
歴史上の人物もまたしかり。
その時々の行動の選択で、歴史が大きく動いてきた。
何を考え、どう判断し、どのような行動を選択したのか。 戦国時代や幕末の偉人たちの行動理論をひも解いてみよう。現代の我々に共通するものが見つかるかもしれない。
目次[非表示]
- 1.改革の政治家 上杉鷹山
- 2.米沢という藩
- 3.財政改革~大倹約令
- 4.産業の再構築と精神の改革
- 5.「良質な社会」の実現
改革の政治家 上杉鷹山
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」
この言葉を生み出した鷹山が生きた時代、財政難は幕府および諸藩に共通する大問題であり、その多くが立て直し切れないままであったのは事実である。
しかし、「財政再建」という点で成功例が他にないわけではない。
にもかかわらず、なぜ今なお、上杉鷹山がフォーカスされるのか?
彼の改革を通して、行動理論を考えてみたい。
米沢という藩
上杉家は秀吉によって会津120万石と佐渡金山を与えられていたが、 関ケ原の戦いで勝利した家康により米沢30万石に減封される。
財源が4分の1になったにもかかわらず、対面を重んじる歴史ある上杉家は、120万石規模の家臣団をそのまま抱え続ける。
そのような中、鷹山が藩主となるのである。
彼は、「民の父母たるを第一とする 学問、武術を怠らない 質素、倹約を旨とする 賞罰は正しく行う」
という誓詞を奉納し、大倹約を行って米沢藩を復興することを誓う。
財政改革~大倹約令
鷹山は、12か条からなる大倹約令を発令。鷹山自身が進んで倹約の範たる行動を実践し、江戸での1年の生活費をそれまでの7分の1とした。
1771年には、「御領地高並御続道一円御元払帳」を作成し、1年間の米沢藩の収入、支出、借金などを詳しく記載、財政の全体を明らかにすることで、人々の協力と理解を得やすい状況を整える。
大倹約令は単に経費を抑えることのみを狙ったものではない。鷹山は学問などに惜しみなく投資した。「学問は国を治めるための根元である」との信念のもと、城下に藩校「興譲館」(こうじょうかん)を創設し、有能な家臣の子弟から20名を無料で入館させるなどの施策を実施した。
彼の「倹約」は、単なる経済的な効果を狙うものではなかった。欲に流されず、物を大切にし、感謝の念を醸成し人を育てるという、倫理の革新を狙うものであった。
結果、単なる財政の立て直しを超える、「良質な社会」をつくり出すことに成功するのである。
産業の再構築と精神の改革
鷹山は、米沢藩の特産品開発にも力を注いだ。
財政基盤の安定には、農業生産を増やすことが第一と考え、藩士に対しても田畑の開墾や治水工事などを実施させるのである。藩士の次男・三男は農村に移り住み、田畑を開墾することを勧めたほどだ。
これも、単に「生産力の強化」ではなく、立場の違いを超え、皆が協働し新たな社会をつくり出すことにまい進するという文化を、藩に生み出したのである。
鷹山は古いしきたりを壊すことをためらわなかった。
藩士が作成した改革案を伝えるため、鷹山は重役のみならず平侍までを含めた全藩士を一同に集める指示を出した。
これに対し、「前例にないことである」と家老が引き留めたが、「例にないことをするのが改革の第一歩である」と受け流した。
従来ならば声をかけない下級家臣にも自ら声をかけるなど、多くの人々の意見を聞くことを非常に大切にし、藩士・農民・町人いずれも「上書箱」を通じて意見を投じることができた。
「良質な社会」の実現
これらの地道な努力により、米沢藩は現在の経済社会の範となるほど「良質な社会」となった。「良質な社会」とは、経済(産業・財政など)と倫理(学問・教育・文化など)が両立された社会である。
鷹山は、米沢藩の再建において、財政改革、産業再構築を通じた精神の改革により、250年前の日本に「良質な社会」を実現させた。
これこそが、今なお、いや、今だからこそ上杉鷹山が注目される最大のポイントではないか。
鷹山が持つ行動理論は2つある。
1つは「倫理と経済を両立させてこそ(因)、真の繁栄が実現できる(果)。なぜならば経済活動とは他者への貢献そのものだからである(観)」。故に「常にその両立の手を打つことを第一とせよ(心得モデル)」
もう1つは「前例・知識にとらわれるな(心得モデル)。なぜならば人の世(社会)は変化こそが常だからである(観)。故に新たな実践のみが(因)、社会の存続を実現する(果)」というものであろう。
(おわり)
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